医療と医療資源
- 2020年12月15日
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生活様式と医療の変化
今回は記念すべき第一回目のブログ更新ということで少し大きな問題から入りたいと思いこのテーマを選んでみました。堅苦しい内容となりますができるだけ砕けて書いてみるつもりです。少しお時間を頂き、お付き合いして下されば幸いです。
今では懐かしく感じますが、私が研修医であった頃と今ではだいぶ医療も様変わりしています(いやーなんだか歳食ったなぁ( ;∀;))。それは世界の変遷や科学技術の発展に伴ない医療が変化した部分も多いですが、一方では人々の生活様式の変化に順応したり国家の政策に呼応したことも多いと言えます。この変化に加速度を与えたのは医療の世界というこれまでブラックボックスだった環境が多職種に対しある程度開示されたことが一因です。この変化は世界がIT化されるに従いさらに加速しました。しかしながら世界に目を向けると、この変化には国家間で少なくない差があるように感じられます。原因は国家によって保険制度が異なったり国民の年齢割合が異なったりと多岐に渡ります。
日本の医療制度(皆さんが医療を受けられる制度)
日本はというと、知っての通り世界でも類を見ない優れた国民皆保険制度があります。しかし年齢割合は超高齢化社会です。普段こういうことはあまり積極的には話題に出しませんが、遠慮がちに言っても高齢者医療にはお金がかかります。それはそうです!国の保健制度の建て付けがそうなるようになっていますから。だけども、増え続ける高齢化の波に対し突然税収が増えることはありません。かなり前から日本の皆保険制度が危機的状況にあるとメディアでも騒がれています。このように急な変化を遂げた国は他にはありません。少し似た国としてイタリアが挙げられる場面が多いですが、国民性や政策の違いが大きく一概には同一視できません。世界は今、日本やイタリアに注目しています。来たる自国の未来の参考にするため、この状況を日本が、イタリアがどう切り抜けていくのかを冷静に見守っているのです。
外国の医療制度(外国の人はどうやって医療を受けるか)
話は変わりますが皆さんは他の国がどんな医療を行っているかご存知でしょうか?ここで各国の話をしたいところですが長くなってしまうので、例えば日本と繋がりが深いアメリカ合衆国はどうでしょう?州によって多少異なりますが日本のような皆保険制度は存在しません。民間保険はありますが一旦は全て自費で支払っていることが多いようです(>人<;)。急性虫垂炎(いわゆる盲腸)の入院費用がおよそ百万円だったなんて話も聞きますので、かなり高額であることは間違いないようです。州立の大きな病院の周りには多くのモーテルが立ち並びます(別にそういうモーテルではありませんw)。入院費が高額なので術後もより早く退院して近くのモーテルに移るのです。翌日から担当医はモーテルに電話して(今はオンライン診療もあるようです)患者さんの安否を確認します「えー、昨日手術された○○さんですか?大丈夫ですかー!?」。このように一度大病を患えば経済的に厳しい立場にすぐ追い込まれてしまいます。恐ろしいですよね?次第に人々の間には未病管理文化が発展していき、サプリメント業界が発展を遂げていくこととなりました(なるほどそれでアメリカ製のサプリ多いのねって思って下さいw)。これらの事実から日本はいかに恵まれた医療制度が適応されているかが分かります。当然ながら社会保障費として多くの税金が投入され、応じて各種税金を国民や法人が納税しています(そうなんです!納税しているんです!大体は勝手に給料から天引きされてますね!)このような制度を普段は当たり前のように受容しているわけですが、世界から見ると決して当たり前とは言えないようです。できる限り、有限である医療や介護のための財政は最大限に効率的に利用されるべきです。有効利用と言うよりもっと積極的に合理化と言い換えてもいいと思います。では合理化という観点で手本にできるモデルはあるのでしょうか。合理化とは資本主義の目指すところで究極目標です。そうなると、やはりアメリカ合衆国にヒントがありそうですね(なんせゴリゴリの資本主義国家ですからね)。
究極目標はアメリカの医療制度?
アメリカ合衆国にはPrimary Care Physician(かかりつけ医)という制度が存在します。これは日本で言うところの「かかりつけ医」とは少しイメージが異なります。詳しくは割愛しますが大きく3種類のタイプのかかりつけ医が存在し、そのどれもがオープンシステムを利用することを前提としている制度構築となっています。
オープンシステム(アメリカのかかりつけ医制度とは)
オープンシステムとは、例えば外科医がかかりつけ医として開業した場合、提携先である大病院の手術室を使用して開業した外科医自身で執刀し患者さんを手術できます。X線透視装置、MRIやシンチグラフィーなどの画像検査機器も自由に使用することができる制度です。大きな手術の場合は当然ながら看護師数人、看護助手、麻酔医などと連携する必要がありますので必要スタッフも準備できます。患者さんは退院時にドクターフィー(医師の技術手数料)、ホスピタルフィー・ファシリティーフィー(医療施設使用量や医師以外のコメディカルに対する費用を含む)など細かな明細付き請求書をもらい、入院費用を支払うこととなります。医師によってフィーは変わりますし、施設によっても多少使用料は変化します。
患者さんだけではなく、医療機関へもメリットがある
オープンシステムの場合、開業時に手術機材やMRIなどを購入したり、どの程度稼働するのかわからないものに過剰な人件費を捻出する必要はありませんので、かなり手軽な開業資金となります。つまり、高額な検査機器購入費用やリース料金を念頭においた診療をする必要はありませんし、検査機器や手術室稼働率を気にする必要もなくなります。患者さんも明細によってどこにどのくらいの料金がかかったか一目瞭然です。大病院側から見ても手術のない時に人件費が最も高額である医師を何人も常駐しておく必要がなくなり経営リスクが分散されています。誰も損はしていませんね?(あっ医療機器メーカーさん以外はww)
日本にも大学病院や総合病院、癌センターなど地域の中核病院となっているような医療機関が存在していますが、ほとんどの病院にオープンシステムは導入されていません。手術が必要な患者さんが見つかった場合はかかりつけ医から紹介状を出して大きな病院に受診してもらい、複数回の受診を重ね、たくさんの検査をした上で病院の医師に手術を(やっと)行ってもらいます。また、退院後しばらくは経過を診るために手術した病院に通院されることもあります。昔ほど多くはありませんが、ずっとそこの病院に通院してしまう患者さんも一定数いるのも事実です(事実なんです!)。状態が落ち着いているのであれば速やかにもともと診ていた開業医に逆紹介されるべきです。それは医療機関としての役割が異なっているからであり、医療経済的にその方が合理的だからです。オープンシステムを利用すれば必ずかかりつけ医に戻ります。なぜなら、かかりつけ医自身が執刀しているからです(当然、自分のところに戻しますよねw)。
医療資源の分散化(合理的なシステムとは)
日本では苦肉の策でDPC(包括医療費支払い制度)を導入していますね。これによってかなり長期入院が減ってきています。弊害を感じている方もいるかもしれませんが日本は世界に比べまだまだ優良な医療制度です。
一方で日本には開業医が特定領域の専門性に特化しているケースも多くあります。アメリカ合衆国にもFamily Practiceと呼ばれる専門家庭医が存在しますが、これは日本における専門性を売りにした開業医とは一線を画します。Family Practiceは新生児から高齢者まで幅広い年齢層を診察することができ、様々な症状を診療できます。例えば骨折や婦人科疾患なども診察してもらうことができるわけです(なんか昔の町医者っぽい感じをそのままに全体的にレベル上げした感じと申しますか…)。日本で専門性を掲げている開業医とは網羅する領域も治療深度も異なるので単純に比較はできませんが…(まぁーFamily Practiceは、何だかんだ言っても何でも診ますからね)。合理化と言う観点からすると、日本のこの専門開業スタイルはむしろ大学病院や地域の中核病院の中にある一つの専門領域科として他科と連携する形で存在するべきであると考えます。クリニックや診療所はあくまで「かかりつけ医」としての立場と、必要時に中核病院や大学病院へ紹介していくシステムがより合理的です。高額な設備投資がかかるような手術室や特殊な検査機器、それらを扱う技術者雇用はある程度大きな中核病院に集約し、そこで多くの患者さんの手術や検査を行うことで医療を合理化・効率化でき、統計学的な研究も母集団としてまとまったデータを蓄積し解析をしていくことも可能となります。新薬の治験などに関しても大規模な研究を行いやすくなります(少し法律を変えれ必要もありますが!)。他科連携した専門スタッフによる合理的な治療が早期の退院を可能とし、より早く地域の開業医に戻すことでこのシステムは循環します。役割を分散化するのではなく集約化し合理化するのです。大きな病院が町の開業医と同じニーズの患者さんを外来診療したり、逆に大病院で他科と連携しながら行うべき手術や治療を開業医が行ったのでは医療資源が分散化され当然非効率になります(やられているクリニックさん、ごめんなさい。これはあくまで経済学的な一般論ですm(_ _)m)。
医療資源を無駄にしないためには医療資源を散財化、非効率にしないことが肝要であり、医療機関ごとの社会的なニーズを適切に捉えて、より合理的にそれに応えていくことが重要であると考えます。ここからもう少し突っ込んでみます。ここまで述べてきたような内容は、多くの政治家の先生方もおそらくは、既にわかっていることなんだと思います。これまでの政権も、それを知らなかったから直せなかったわけではないんだと思います。とっくに問題視はされていたんだと思います。ではなぜ?是正されなかったのか?答えはいつも大体同じです。これを読んでいる皆さんはもう想像ができていることと思います(そうです。ある種の圧力ですね)。後は、超高齢化社会において政権を維持したり、選挙を考えるとどうでしょう?これもまぁ、想像に難しくはないですよね?(1票が大事ですものね?一人1票なんですから ゚д゚)でも、それに甘んじていると確実に国全体は衰退していきます。医療以外のことにも同じことが言えますね。今日よりも明日のために、今!行動をしなくてはならない時がきているんだと思います。自分が良くても自分の孫の世代が苦労するような社会は作りたくないですから。
まだまだ色々お話ししたい問題はいっぱいありますが、医療と医療資源のお話はここまでとします。改めて日本の医療のあり方を、医療資源という観点で考えていただける機会が持てたのなら幸いです。これを読んだ上で、皆様は本当に地域のクリニックや診療所に特定の専門性を求めますか?より広い分野の診断をつけることができ、必要時に地域の中核医療機関の専門医に紹介できて、慢性期疾患を一定のレベルで診療できるいわゆる「かかりつけ医」。どちらが皆さんの身近には必要だと思われたでしょうか?
かみみぞ中央診療所
院長 片野智之
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